
窪田順生の時事日想:
連休中に日本列島を震撼(しんかん)させた関越自動車道ツアーバス事故。各紙の編集委員や専門家たちは、再発防止のためにさまざまな提言をおこなっている。
ドライバーひとりで運転させるってのはムチャだとか、「ナンバープレート貸し」が横行しているせいだとか、ガードレールと防護柵の隙間が被害を拡大させたので、今すぐに全国の高速を整備しろとか……。中には、小泉改革時代の「規制緩和」が諸悪の根源だから、ビシビシ規制を強めろという方まで現れた。
このような悲劇を繰り返さぬためにも、これらの意見を徹底的に検証してもらいたいところだが、個人的には再発防止というのなら、ぜひマスコミに調べてもらいたいケースがある。
それは、今回の事故の1週間前、中国で起きた観光バスの事故だ。
4月22日午前9時ごろ、中国江蘇省常熟の高速道路で観光バスが中央分地帯を乗り越えて、対向車線を走っていたトラックと正面衝突した。日本の悲劇と同様で、こちらの被害もかなり甚大で、13人が亡くなり、21人負傷うち4人は重傷だった。
●「中国人観光客」の増加と「河野交通」
ご存じの方も多いと思うが、中国国内では今、このようなバス事故が多発している。外務省の在留邦人向けの安全の手引きで、「全国的に長距離バスや高速道路上での死傷事故が多発しています」と注意喚起しなくてはいけないほどで、その背景には、経済成長で中国人観光客が急増していることがある。
「中国人観光客」ときいて連想されるのは、関越自動車道ツアーバス事故を起こした河野化山(こうの・かざん)容疑者だ。
すでに報道されているとおり、彼は中国出身で1994年(平成6年)に帰化したものの、日本語があまり得意ではなく、トラックの運転手をした後、自らバスを数台所有し、「河野交通」を名乗り中国人向けのツアーを運行していた。
そんな事実が明らかになると、マスコミは「異常な業務実態が浮き彫りになった」と驚いているが、日本人のモノサシではかるから「異常」にみえるだけで、中国国内で観光ビジネスをしている者と思えば、さして驚くこともでない。
例えば、先ほど13人の死者を出したドライバーは事故直後、「居眠りをしていた」と過労をイメージさせるような供述をしたが、河野化山容疑者同様に調べていくと、驚くような事実が発覚する。なんと、前夜は飲み歩いていただけでなく、麻薬まで吸っていたのだ。
さらに日本中が悲しみに暮れていた5月1日には、寧夏回族(ねいかかいぞく)自治区で17人乗りのバスに23人が乗り込んでタイヤがパンク、やはり対向車線に飛び出して18人が亡くなっている。
●第二、第三の河野化山に「日本の安全ルール」を叩き込む
断っておくが、なにも中国人の運転が信用できないとか、いい加減だとか批判をしたいわけではない。
このようなケースから分かるように、日本では安全面で「アウト」のことが、中国では「セーフ」としてスルーされることが多い。
河野容疑者は今回の運転を「アルバイト」と述べ、バス運行会社から「名義貸し」を受けていたが、違法だと認識したうえでスルーしていた。日本では完全に「アウト」だが、彼のモノサシでは「セーフ」だったのだろう。
某ワイドショーの司会者は事故のニュースを終わりに、河野容疑者についてこんな言葉で締めくくった。
「中国から出て言葉もしゃべれないような状況の中から一生懸命努力をして、やっとつかんだドライバーの仕事だったと思うんだよね」
同情するのは勝手だが、マスコミがお得意な「ドライバー個人を責めるより再発防止が大事」で片付けては、なぜ彼が日本のルールをスルーしたのかは見えてこない。
ガードレールの整備実態の調査も必要だ。運行会社の安全管理を徹底せよというのもごもっとも。ただ、それだけではないはずだ。
震災で減っていた中国人ツアーは徐々に持ち直している今、「河野交通」のように中国人相手に中国スタイルのバスツアーを運行している業者はゴマンといる。ついでに言えば、河野化山容疑者は「中国残留孤児の子弟」だとみられているが、元警視庁通訳捜査官の坂東忠信氏の『日本が中国の「自治区」になる』(産経新聞出版)によると、「日本に滞在する残留孤児関係者のほぼ九割が偽物」らしい。
ならば、第二、第三の「河野化山」たちに「日本の安全ルール」をきっちりと叩き込む仕組みをつくるべきではないか――。
そんなことを強く訴えるマスコミがひとつぐらいいなくては、亡くなった方たちが浮かばれない。
[窪田順生,Business Media 誠]
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